アンビエントの原点にして大名盤
アンビエント・ミュージックは一般に環境音楽と訳されています。イーノのアンビエントものの第1作のライナーでイーノ自身は次のように述べています。
「1975年の1月、ぼくは事故にあった。大した怪我じゃなかったのだけど、ベッドに縛り付けられて動けない状態になった。友人のジュディ・ナイロンがお見舞いに、18世紀のハープ音楽のレコードを持って来てくれた。彼女が返った後、かなり手こずったあげく、やっとレコードをかけることができた。でも横になった後で、アンプのボリュームが小さすぎ、しかもステレオの片方のチャンネルが鳴っていないことに気が付いた。それを直す元気がなかったので、ほとんど聴こえないままでレコードをかけていた。で、そのときふと、これって新しい音楽の聴き方かも?とひらめいたんだ。このときの経験が、光の色や雨の音と同じように、環境の一部と化した音楽というものをぼくに教えてくれたんだ。ぼくがこの作品を、比較的小さめ音から、聴こえるか聴こないかぎりぎりの音量でかけるようにすすめるのは、そんな理由からだ。」
イーノが正式にアンビエント・ミュージックとして発表したアルバムが「ミュージック・フォー・エアポーツ」です。この題名は比喩でも何でもなく、文字通りの意味で「空港のための音楽」です。イーノは空港という場所とその機能のために音楽を作曲しました。この音楽は実際にニューヨークのラガーディア空港で使用されています。最初の"1/1"はピアノとシンセサイザー主体、2曲目の"1/2"は肉声のみで演奏されるミュジーク・コンクレートを思わせる曲であり、3曲目の"2/1"は肉声とピアノ、4曲目の"2/2"はシンセサイザーのみで演奏されています。アルバム・ジャケットには、楽曲の解説と思われる奇妙な図表による添書きが個々の音楽に併記されていますが、その意味する所は解説されていません。
空港の待合室、ロビー用の音楽として制作された「ミュージック・フォー・エアポーツ」ですが、1995年の彼の日記によれば、次の点に注意が払われたそうです。
●中断可能でなくてはならない(構内アナウンスがあるから)
●人々の会話の周波数からはずれていること(コミュニケーションが混乱しないように)
●会話パターンとは違う速度であること(同上)
●空港の生み出すノイズと共存可能なこと
●空港という場所と目的に関係して、死に備えられるような音楽であること
http://homepage3.nifty.com/okada-medical-clinic/newpage3.htm
Music for Airports ライナーノーツ
このアルバムは一つの目的の最小公倍数で成り立っている。私はここで面白い音楽を作り出そうとは思わなかった。
純粋に、空港で流れるようなものを作りたかったのだ。そして私の音楽によって非行は耐え難い、不愉快なものではなく楽しいことだと思ってもらいたい、というのは私が常に飛行機での旅行を好まないからだ。
アルバムの中の1曲では非常に長いテープループ、50、60、70フィート相当のものをいくつも使用している。その数は全部で22。あるループにはピアノ音だけが入っている。あるループにはピアノ音だけが入っている。あるいはループには女性の声、10秒ほどの長さのものが入っている。女性の声のループが8本、ピアノ音のループが14本、私はこれだけを使用した。そして構成は意図せずループの動くままにまかせた。結果は最高だった。
この曲はみんなが想像するようにメカニカル、あるいは数学的には実際、聞こえない。一人の男が緊張してピアノを弾いているように聞こえる。空間的広がり、ダイナミックさを感じさせる彼の演奏は非常に組織的だ。
この曲が出来上がり、私が聞き返したとき、ただ一つ、気に入らないピアノ音があった。間違った場所に入り込んだようなその音を私は編集の際に取り除いた。システムは常に正しい。システム・コンポーザーはそれゆえにこのようなことに出会う。システムを変更させることはむやみには出来ない。システムは自分がそう判断する限り正しいものだ。もし何かの理由でシステムが気に入らないとしたら、そのときは自分の直感を信じるべきだ。私はシステムに対し、教義的アプローチは望まない。
Brian Eno
http://www.asahi-net.or.jp/~cz3m-tkhs/keyword/m-f-a.htm
Posted at 2012-08-23
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