時代を超越した名盤、普遍的名作!
「数奇」。その言葉がよく似合う作品です。もともと、クラウス・シュルツに聴かせるために、いわゆる一発取り(!)で1981年に作成され、3年後にリリース。「ドラマ性が無い」「単調」と言われ、リリース当時はまったく売れず、恐ろしく安い値段でたたき売りされ、それがどういうわけか90年代に入ってテクノ方面で評価されだし、あっという間に伝説の名盤。
曲名だけ見ると9曲入っているかのようですが、実際には59:35ノンストップの1曲です。内容はというと、微妙に変化していくシーケンサーリズムの上を、ギターが漂っていくといった具合。確かに単調、確かにドラマ性は無い。でも、格別の気持ちよさがあって、ここがテクノ陣営に評価された点なのでしょう。
なお、“E2-E4”というシンプルな題名はスターウォーズの“R2-D2”とコンピュータ言語のシンプルな表現方法、そしてチェスのコマの動きについての表現方法に基づいているとのこと。僕は各題名から「静かな緊張」から始まって「引き分け」に終わる“E2”と“E4”というコンピュータプログラム同士のチェスの試合を描いているんだと思っていたのですが…。
http://www.ashrization.com/discography_con/e2_e4.htm
イタリアンハウス系のスエニヨ・ラティーノに引用され、ハウスミュージック・ファンにも聴かれているなどと「ジャーマンプログレシヴロック集成」に書かれているが、それが本当なのかどうかは私は確認していないのでわからない。もともとこのアシュラというかマニュエル・ゲッチングは様々ところでパクられている。ポピュラー音楽界の実験者としていつの時代もマイペースに自分の音楽を追究してきた人なのだ。そういう生き方は本当にカッコいいし、憧れてしまう。1990年以降のテクノ・ハウス音楽というかクラブ音楽シーンでこのマニュエルゲッチングの「E2-E4」はけっこうな影響を与えた作品だと言われている。それを私は確認している訳ではないが、この1984年に制作されたサウンドを聴く限りに於いて、これはまさに1990年代のサウンドであると確信できる。本当にこの人は天才というか予言者というか、時代を先に進みすぎるなぁと思う。1984年当時、この音楽をどういう人々が受け入れていたのか非常に興味が沸くところである。下手するとほとんど無視されていた可能性すらあるのではないだろうか。まず、僕らプログレファンは受け入れる余地はなかったように思う。当時の僕らは壮大な厳粛な変拍子のスピード感溢れる往年のプログレサウンドの復活を夢見続けていたのである。
1990年代に入り、テクノという言葉が表に出てきた。僕らにとってテクノとはテクノポップのことであり、あの世界的なスーパーグループY.M.Oを想い浮かべてしまう。でも、このテクノは全く違うテクノなのだった。ハウス/テクノという感じでダンスミュージック及びクラブミュージックとの関係の中で位置づけられる音楽たちだった。この「E2-E4」をテクノ/ダンスという観点で話をするなら、ノリノリのアッパーサウンドではない、でも、ゆったりしたダウナーサウンドでもない。ヒーリングサウンドでもない。ある意味でそのどれにも当てはまらないミディアムテンポが心地よいメロディーがあるミニマル・ミュージックなのだ。
マニュエルゲッチングは「Inventions for electric guitar」や「 New age of earth」で彼独自のミニマル・ミュージックを成立させていた。その後、ミニマル以外のさまざまなサウンドを試みた作品を発表してきたが、この「E2-E4」ではあのミニマル・ミュージックの世界が全開している。しかも、「New age of erth」などと明らかに違うのはダンスミュージックになっていることである。これはダンスなのだ。ここにあるリズムはダンスのそれである。淡々としながらも朗らかで優しく、ある意味でクールさも兼ね備えている。起承転結など無く、そこに物語も存在しない。心地よく繰り返されるサウンドがあるだけである。でも、それが素晴らしいのだ。とにかく何度聴いても心地よい。大好きなアルバムである。
http://hide-oba.v.wol.ne.jp/diskreviews-new/ash-ra-tempel/E2-E4.html
Posted at 2012-08-23